タイ中部、プラチュアップキーリカン県、保養地ホアヒンのラチャパクティ公園。
この地に2015年9月、タイの新たなランドマークが誕生しました。
歴史上の王をかたどった7人の巨大な銅像(高さ14メートル)が建造されたのです。
今、おごそかで強力な磁場を発する、これらの銅像の建造にあたり、現軍事政権に収賄があったのではとの疑惑が持ち上がり、タイは(静かに)揺れています。
国王の祝賀イベントBike For Dadを目前に控えているにも拘らず、この公園で政治集会が行われる動きもあり、軍事政権は現在同公園を立ち入り禁止(写真左奥に7人の像が見える)としています。

この"ラチャパクティ"スキャンダルの行方は…

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バンコク、エラワンでのテロ爆発はBike For Momの直後に起こりました。
イベント前後とも最大級の注意を。
タイに何事もないことを祈ります。

 それは本来、タイの軍事政権の強硬な王党派としての資質を強力に示す公式表明になっているはずだった。プミポン国王の海辺の宮殿に近い陸軍所有地に、歴代の国王7人の巨大な銅像が建造されたのだ。
 9月の落成以降、そびえ立つ銅像は次第に大きな関心を集めてきた。ただし、その理由は将軍たちが意図したものではなかった。

  発足18カ月の軍事政権を悩ませているのは、銅像プロジェクトの請負業者に賄賂を要求したとされるスキャンダルだ。その醜聞は、軍部による国家運営をおお むね控えめに批判してきた人々を新たに勢いづかせている。タイでは、王族を批判から守る厳格な不敬罪法の違反容疑に対する取り締まりが拡大しており、今回、不穏な空気がさらに高まった。身柄を拘束された人のうち少なくとも2人が拘留中に不審死を遂げたのだ。

<国王の状態も不安に拍車>

 反腐敗運動に乗り出し、選挙を繰り返し延期して権力基盤を強化しようとしていた将軍たちにとっては、タイミングが悪かった。一連の問題は、プミポン国王の88歳の誕生日を5日に控えて国民の士気を高めようとする努力の出ばなをくじいた。
 即位から70年近くたち、国王の健康状態は悪化しており、政情不安と経済の不振から生じた幅広い不安を増幅させている。

 「軍事政権は非常に難しい立場にある」
 バンコクのチュラロンコン大学の学者、プントーン・パワカパン氏はこう言う。「経済的苦境にあって、人々は不満を抱えている。こうした他の問題は、国民の間に前向きな感情をまったく生み出さない」
 先月疑惑が表面化して以来、銅像問題は次第に現実離れした展開を見せてきた。2人の著名な野党指導者が、海辺のリゾート地ホアヒンの現場を訪問しようとした後に身柄を拘束され、12月初めになって解放された。
 軍事政権は、10億バーツ(2800万ドル)の費用がかかったと報じられているプロジェクトの現場を2人が訪れたら混乱が生じる恐れがあったと述べた。同政権は、公の場での抗議行動を禁止している。

  元陸軍司令官で軍事政権幹部であるウドムデート・シタブット大将が、像の鋳造を狙う業者に軍部が賄賂を要求したとの嫌疑には「いくらかの真実」があると 語ってから、銅像公園には数々の疑問が持ち上がっている。軍部は、調査では不正の証拠が見つからなかったと述べたが、評決はごまかしだとの批判の声が上が ると、さらなる調査を行うと発表した。
 この一件は、次々に事態が進展する別のスキャンダルに続くものだ。

 このスキャンダルで は、6人以上の人が資金を集めるために、王族と親密な関係にあると偽った罪に問われている。彼らは「バイク・フォー・ダッド」の組織運営に関与したと主張 している。これは12月第2週に国王に敬意を表して行われる予定の大規模な自転車イベントで、国王の息子で後継者のワチラロンコン皇太子のイメージを高める手段と見なされている。

<捜査の厳格化、人々の懸念呼ぶ>

 告発された人のうち2人――モール・ヤンとして知られる著名占師と警察幹部――が拘留中に死亡した。
 2人の遺体は、正式な検視解剖が行われないまま、即座に火葬された。

 クーデター以来、不敬罪で何十件もの捜査が開始され、懲役15年以上の実刑判決が下されてきた。グリン・デイビス米国大使が11月末に判決を批判すると、強硬な王党派のデモが勃発したが、軍部はこれを止めなかった。

 伝統的に保守的な評論家でさえ、法が行使されているやり方を批判し、法的措置を講じることのできない機関を守るという公式目標の域を大きく逸脱していると述べている。
 「これは抑止ではない」
12月初め、体制派の新聞ザ・ネーションは社説でこう書いた。
 「幻滅を招く呼び水であり、そこから反乱が生じる。当局者が最も恐れている結果そのものだ」

 不敬罪での取り締まりは、後見人としての役割を推進しようとする軍部の国家主義的な取り組みだ。

 今、軍部が直面しているのは政治的な分裂、停滞する経済成長、そして国王の継承問題だ。
 年老いた国王はめったに公の場に姿を見せない。また、軍部が権力支配を緩めると見る向きは少ない。新たに出てきた不審死と汚職疑惑のニュースが、軍が守ろうとしている制度そのもののイメージを損ねたとしても、だ。

 「すべてが以前よりずっと秘密に包まれた形で起きている」
 タイに本拠を構える学者で、政治が専門のデビッド・ストレックファス氏はこう話す。
 「私には逆効果に見える」

By Michael Peel in Bangkok
(2015年12月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
[FT]タイ、銅像建造の収賄スキャンダルで不穏な空気:日本経済新聞