東南アジア最大の国際河川メコン 河。

中国雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムと6つの国を抜け流れていく、そのメコン 河にいま大渇水への危険性が迫っています。

最初、このニュースを意識したのは2月20 日過ぎ、知人を通じて「メコン河の水位低下でルアンプラバン行きのスローボートが休止になっている」との情報が入って来た時でした。ラオスの世界遺産ルア ンプラバンへのスローボートといえばタイ北部から行く観光のドル箱路線。チェンマイなどタイ北部を回ってからラオス入りする観光客の殆どが、メコン河沿い 国境の町タイのチェンコーンから対岸のラオス・フエサイへ渡り、そこから乗り込むのがこのルアンプラバン行き1泊2日のスローボートなのです。それが止 まったとなれば、途中停泊する道中の町など観光業界への影響は必至、観光客の混乱も免れられません。

それ以後聞こえて来るニュースは「メコン河の水位低下が止まらずボート運航再開のメドがたたない」「こ こ何十年で類を見ない渇水」「船が出られなければ漁にもでられない」「船を利用する生活者への救済を」「上流の中国のダムが影響している」などの声で、こ れらが地元地方新聞で取り上げられて行きました。

これと同時期にラオスの首都メコン河沿いのヴィエンチャン市内では水道不足が問題視され、水道浄水施設 の水位が1.5メートルで通年の2.5メートルを大きく下回り、深夜にしか水道が出ないこと も、と報じられました。

タイ・メコン河でのチェンセーン貿易港は中国からの荷物の重要な引き受け地ですが、ここも水位低下で貨物 船が出港できなく停泊したままになり、またここに入って来る中国からの船も入港できない。

仕方なく、中国からの物資輸送は陸路、ラオスのルアンナムターを 経由してフエサイ、そしてタイを目指すトラックでの対応に振り分けられはじめました。

このチェンセーン貿易港の目と鼻の先にはタイ北部観光の大規模開発地であるゴールデントライアングルへ のボートツアーにも影響が。

チェンセーンの対岸、ラオス領に用意されたドーンサオ島は入国手続き無しに手軽にラオスの土産物を買えるなど人気の観光スポッ トですが、この領にも観光客の上陸が不可能になってしまったのです。もはや雨季の来る5月をのんびり待つという事態ではありません。

ただこの時期、タイ国内のニュースはタクシン元首相の凍結資産裁判に国民の目が向いており、またタイ東 北地方での水不足など毎年のこと、この「メコン河水位低下」のニュースの注目度はかなり低かったと言っていいでしょう。

そんななか一番のインパクトだったのが3月始めタイの新聞やTVで報道された、タイ・ラオス友好国境橋でのメコン河の水位状況でしょうか。

タイのノーンカーイからラオスに渡る、いまや鉄道併用橋でもある代表的なタイの国境橋ですが、ここはた とえ乾季であろうとも、両岸まで普通に河川の水が広がった風景がみえるはずなのに、いまは大部分が渇水し川底が露出、橋の橋脚がすべてむき出しになって、 かろうじて一部に河の流れを確認できる程度になっていたからです

(写真2/干ばつにより露出した中国雲南省・昆明のダム底/2 月2日)

この水位低下の原因としてまっさきに話題に上がるのが「上流の中国が発電の為にダムで水をせき止めてい る」との話。

しかし現実はそう短絡的なものではなく、実は2月早々、いやそれ以前からメコン河の上流・中国雲南省で は60年ぶりとも言われる干ばつが発生していたのです。干ばつは主に雲南省全省、貴州省西南 部、広西チワン族自治区西北部、四川省東部、および重慶市などに及んでおり、中国政府は市民の飲用水確保を重要課題に挙げていました。この大きな干ばつの 影響でメコン河の水量が2月8日から大幅に減少し、毎秒400から500立方メートルだった流水量が240から260立方メートルと半減近い流水量になっ たと報じられました(昆明発・2月22日新華社電)

メコン河の水位の低下から中国シーサンパンナ海事局は船舶の通航許可証の発行を即座に停止し、内外の船 舶に危険を冒して航行しないよう、安全な水域での停泊を求めました。これにより雲南省でも26 隻の船舶が水位の低下により航行できずに停泊し、そのうち21隻が中国の船舶で、5隻が外国の船舶だと報告されています(同じく2月22日新華社電)。

このようにメコン上流の中国雲南省でも同様の状況が先攻、また同時進行していたことになり、これで中国 の進めるメコン河のダム建設と、今回の異様な水位低下との関連性を直接結びつけることはできないにしても、もはやこれだけの事態の収拾にはメコン河にかか わる全ての国の討議が必要不可欠となっています。

いま現在タイ上流のメコン河では中国のダムの4つが操業中で、さらに10以上のダム建設が計画されていると言います。

今回の水位低下、渇水問題に付いて、中国に対し てタイ政府はメコン河委員会(MRC/タイ・ラオス・カンボジア・ベトナムが参加)を通じ、メコン水系のダム放水を要請するようですが、中国は同委員会に 加盟しておらず、どこまで協力体制が成立するかは未知数です。

今回の問題ではっきり浮き上がるのはメコン河流域国の中での、中国の脅威です。メコン河で計画される中 国のダム建設というのは、まさに中国がインドシナの血の動脈をわしづかみにしていく様でもあり、タイを初めとするメコン河委員会の各国は相当な危機感を もって、今後対抗して行くべきでしょう。

匠武士(たくみたけし)タイ愛好家